お茶の間革命を目指して家電業界など各社奮闘中ですが、不必要な機能や使えない操作性、新技術の押し売りと、家庭を「浪費する機械」としか見ていない利益信仰、目的や思想や社会性が全く見えない浮ついたSTB構想にうんざりしてきた中、具体的な製品とサービスをがっつり打ち出せたのはやはり任天堂とAppleでした。
共通の特徴
「テレビに繋ぐ娯楽用品である」という割り切りがこの二社の製品に共通する思想に思えます。片やゲーム機として、片やテレビ用iPodとして、明確かつ具体的に「楽しみ」部分を「機能」として提供いるのが大きな特徴です。
これまでのSTB構想のプレゼンテーションにありがちな「大袈裟で包括的」かつ「具体案が貧弱」かつ「消費者側に目的が見えない」という負の側面をまったく感じさせません。
これまで「STBなんて一台あれば十分」と思っていましたが、それこそ囲い込みを目的とした胡散臭いSTB構想に騙されていた結果であって、実は小気味の良い製品なら目的別に複数あったっていいじゃないか、と思うようになりました。
アップルが以前から提案しているハブ構想
Appleがずっと提唱している家庭内のデジタルハブ構想の要は、各種AVハードウェアを独自規格で掌握しようとするハード中心のものではなく、音楽や写真や映像をより気軽に簡単に扱えるようなインターフェイスを含むソフトウェアを中心とした広がりであると言えるでしょう。そもそもMac自体が、複雑なコンピューティングを家庭レベルで扱えるようにしようとしたもので、創業時からこの姿勢は一貫しています。
中でもiTunesとiPhotoの「ユーザー体験」部分のデザイン力は群を抜いていますし、それを支えるOSのデザインも以前ほどではないにせよ親しみやすくコンピュータ臭さが少ないものになっています。
「データ管理はパソコンで行い、気軽に楽しむのはテレビで」という行為に敷居の低さと一貫性が保てるのは実のところMacならではの部分ですが、この部分をどう受け取るかによってApple tvが広がりを見せるかどうかの分かれ目になりそうです。
ゲーム機がSTB構想の基礎
任天堂はファミコンで「テレビに接続する娯楽機器」というSTBの元祖とも言える製品を定着させ、以来ゲーム機はビデオデッキ等とは少し趣の違う立場で独自の世界を継続して展開してきました。
Wii以前のテレビゲーム機は全て「ファミコンのグレードアップ機器」にすぎないと感じさせるに十分なWiiの新しさとは、チャンネルによる機能の広がりと、その機能の広がりに伴う複雑さをポインティングデバイスとソフトウェアデザインで克服した点であると言えましょう。
コンピュータ的な細かな機能をばっさり切り落とし、単純な操作で目的を絞り込んだ「伝言板」と「写真チャンネル」のソフトウェアデザインを見るだけでも、その方向性がはっきりとわかります。
特に「写真チャンネル」はAppleがiPhotoで提唱した思想を任天堂が咀嚼した結果だと即座に感じることが出来ます。
一般の捉え方
さてApple TVとWiiはともに「テレビに繋げる娯楽機器」ですから販売対象は一般家庭でしょう。ここで両社の足場の違いが明確になります。
同じ「家庭用」機器でも、どんなテレビにも接続できるWiiに対して、Apple tvを楽しむには「コンピュータでのデータ管理」が必須な上に「最新の入力端子を持つ高解像度テレビにしか接続できない」という大きなハードルが設けられています。
実際のところ、古いブラウン管テレビはまだ多く使われており、ハイテク関係者やマニアが思うほど最新テレビは普及していません。
Appleはコンピュータ会社の常識にまだ根本的に囚われており、一般家庭への普及を本当の意味では目指していないように感じます。ひとつには「ブランド力の維持」のため、最初は最新機器を持つ比較的裕福なハイテクマニアにだけに売る戦略である可能性があります。しかしこの戦略はAV機器やコンピュータには有効でも、一般向け家電ではうまくいかないように思えます。
ゲーム機の途方もない普及率と真っ向勝負する気がないとすれば別ですが、Apple tvはお茶の間に革命を起こすには力不足と言わざるを得ません。当面はiPodのヒットに近づけることになるのでしょうが、iPodは普及しきっている音楽CDが対象で、かつ「コンピュータでのデータ管理」以外には全く敷居がないというのが大きな違いになるでしょう。
日本とアメリカのパソコン事情に違いは?
さて「コンピュータでのデータ管理」ですが、これは敷居の高さに繋がるのでしょうか。
何のデータもないので断言できませんが、どうにもこの部分で日本と米国の温度差を感じます。
パソコン普及率は日本も相当高いはず。しかし実際にコンピュータが日常にとけ込んでいる人の少なさは相当なものだと思われます。
普通の暮らしをしている普通の庶民で、日常的にコンピュータを使用している人を見かけることはそう多くありません。
例えば、デジカメで取ったデータを取り込まない人や「メールは携帯で頂戴、パソコンは普段起動してないから」という人、あるいは、パソコンは持っているけど時々しか使っていない、という人は驚くほど多いのです。
iPodやApple tvを楽しむには、日常のベースに「コンピュータを使ったデータ管理」がまずなくてはなりません。データ管理と聞くだけで身を引く人、iPodに付属するiTunesを見て「データ転送ソフトをパソコンに入れないと使えないなんて面倒くさー」なんて思ってるレベルの人が多ければ、ゲーム機ほどの普及を目指すこと自体がナンセンスでしょう。
米国の事情は全く知りませんが、英語ベースのお国柄なので当然日本よりも実稼働しているのではないかと想像できます。
iTunes事情の違い
もう一つ、最大の不安因子はiTunesです。
Apple tvを堪能するには、iTunes Storeの充実が最低条件になります。コンテンツの充実と低価格が必要ですが、 日本の現状ではTunes Storeが今後良くなってくる可能性が全く見えません。このまま 値段が高く、コンテンツが少ない状況が続けば、これこそがApple tvにとって最悪の循環を生むでしょう。
この弊害は人為的なもので、コンテンツを提供する側や著作権ゴロの仕業です。この連中が改心することは世代が変わるなどしない限りあり得ないと思われますが、なんとかならないでしょうかね。
最後に妄想
あり得ない希望的妄想を最後に書くと、Wiiのチャンネルに「iTunesチャンネル」があればそれが最高。
この話題のオチ
10年近く後の追記ですが。Apple TVは予想通り普及せず、Wiiはヒットしたものの任天堂にプラットフォーマーとしての自覚や能力がないことが災いして、構想とアイデアの割には実装がついて行かず、任天堂もWiiを継続することを放棄しました。これは残念なことでした。
そしてこの間に何があったかというと、テレビに繋ぐSTBは無意味なジャンル、すでに死語となりました。なぜなら、もうテレビ自体がどうでもいいものに成り果てたからです。テレビがお茶の間を制していた時代は終わっています。
そしてもう一つ、iPhoneという、Macに匹敵する革命的商品をAppleは出してしまいました。Macは世界を変えましたが、それに留まらずiPhoneも変えてしまったという、どうなってんすかApple。凄すぎます。
でも残念ながらスティーブ・ジョブズ亡き後はただのつまらない大企業と成り果てることでしょう。